2015.12 COLUMN

音楽シーンを席巻する驚異の17歳、ぼくのりりっくのぼうよみの魅力とは?

Written by 小野島大(リード文:Kulture編集部)

ラップとポエトリー・リーディングの中間に位置するようなフロウと、知性を感じさせる多彩なリリック。そしてJ-POPとしても楽しめる間口の広さを持ちながら、同時に確かなクリエイティヴィティを感じさせるトラック――。デビュー・アルバム『hollow world』がリリースされるやいなや、その高い音楽性で音楽メディアの年間ベストを席巻中のアーティスト、ぼくのりりっくのぼうよみ。15年にデビュー作を発表した新人勢の中でも屈指の注目を集めつつある、「ぼくりり」の魅力とは一体?

音楽シーン注目の新鋭は、大学受験を控えた17歳の高校生

既に話題騒然である。この春には大学受験を控えた17歳の現役高校生ラッパー、ぼくのりりっくのぼうよみ、略して「ぼくりり」。本人にラッパーという意識はないとのことなので、単にヴォーカリストもしくはアーティストと言った方がいいかもしれない。中学生のとき、ネット上にアップされた既存のトラックにラップや歌を載せて動画サイトに投稿を開始。高校2年の14年に『閃光ライオット』のファイナリストに選ばれて、その才能を絶賛された。先月、ファースト・アルバム『hollow world』がリリースされたばかりの若い才能だ。

『hollow world』に宿るリリカルな叙情性、クールな知性

まず耳につくのは、思春期性と青年性が微妙に溶け込んだような、甘く、どこか醒めたクールネスも感じさせる魅力的な声質。そしてラップと歌をスムーズに往還するヴォーカルの巧みさと、フックのメロディの鮮烈なまでの美しさ。ラップやリリックにも、日本語ラップにありがちなマチズモは皆無で、スタイルはむしろ「リズムを強調したポエトリー・リーディング」という方がしっくりくるような、リリカルな叙情性を感じる。ただ声を聞くだけで、ある種のドラマやエモーションを感じるのだ。もちろんそうしたスタイルを持つヴォーカリストは彼が初めてというわけではないが、一聴しただけですぐにわかる才能の巨大さのインパクトは強烈だ。

そしてリリック。一読してすぐに感じるのは、クリシェ的な定型表現や、手垢にまみれたような決まり文句が一切ないこと。語彙の豊富さと言語表現のセンスの良さを感じる。かなりの読書家ということだが、知識や経験値というより、蓄積した言葉のストックから、音としても意味としても適切なものを引っ張り出してフレーズにあてはめるセンスと勘の良さが際だっているのだろう。

固有名詞を使わず、個的な感情を剥き出しにしないリリックのクールな知性も際立っている。具体的な状況や情景が浮かび上がるような作り方をしないというリリックは、抽象的かつ観念的で、常に対象を突き放して見るような客観的でフラットな視線を感じるし、現在のJ-POPのメインストリームの安直な共感狙いの歌詞とは一線を画している。聴き手の多様な解釈を可能にする多義的なリリックは、聴き手の知性と想像力を問いかけるような奥深さがある。ダークで孤独で閉塞的な世界観は感じられるが、それはこの時代に生きる者なら誰もが感じていることだろう。

まったくの新世代。ネクスト・ジェネレーションの到来

リリックの題材はぼくりりが実際に経験した現実というより、インターネット上で見聞きした事象などに触発されることが多いというが、それには当然、彼がまだ高校生で、現実の社会での絶対的な経験値が少ないことも関係しているだろう。もちろんそれは、現代ではある意味でインターネット上の仮想現実こそが「リアル」であり「現場」であることの証拠にほかならないが、物事を俯瞰して見るようなクールで客観的な視線が、プロのアーティストとして現実の社会の軋轢に放り込まれたとき、どう変わるか。生活のすべて、心のすべてが一定の強い感情に支配されどうにもならなくなるような、そんな強烈な体験をしたとき彼の表現はどう変わるのか。そうした興味も強く湧いてくる。
 一方、トラックに関しては、個々のトラックメイカーに大枠の要望だけを伝え、あとはメールのやりとりだけで、ほぼお任せという作り方だったようだ。だから、少なくとも本作だけで彼のトラックメイカーとしての才能の全貌はわからない。だが楽曲のタイプに応じてさまざまなサウンドを展開しながらも彼のヴォーカルや声、リリックなどと齟齬なく溶け合って、アルバム全体としての統一感を強力に打ち出していることからも、少なくともプロデューサーとして自分の世界観を的確にサウンドで表わすことはできている。

 個人的には16年前の1999年、19歳の七尾旅人がアルバム『雨に撃たえば…!disc2』でデビューしたときのような衝撃を覚えた。これは私としては最大限の賞賛の言葉である。

まったくの新世代、ネクスト・ジェネレーションの到来。この先ぼくりりがどんな成長を遂げていくのか。楽しみでならない。

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小野島大(リード文:Kulture編集部)

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音楽評論家。大阪生まれ、東京都世田谷区在住。